「みんなのコメント、ちゃんと見ています。でもね、私はやりたいから。」
このコメントが、桃神祭を前にした、高城れにちゃんの口から出てきたとき、もうすでに心配は何もいらなかったんだと、今更ながらに思っている。
ももいろクローバーZの「春の一大事」「ももいろクリスマス」と並ぶ、夏のメインライブ「夏のバカ騒ぎ」の今年のライブ「桃神祭」。
静岡のエコパスタジアムに、7/31、8/1の2日間で8万人以上を集めたこのモンスターライブを前に、またも彼女たちは問題を抱えることになった。
メンバーの一人、高城れにちゃんの左腕骨折。
当初、桃神祭への参加も危ぶまれ、多くのモノノフも、「桃神祭でれにちゃんの姿を見たいけど、無理はしてほしくない」というコメントを寄せる中、れにちゃんは自ら「踊れなくても、桃神祭には参加したい」と意思表明した。
5人のメンバーの一人が踊れない、ということ。
これがメンバーに多大な負担をかけるマイナスの要素だと、多くのモノノフが感じたはずだった。
それが、このれにちゃんの決意表明で、きれいに逆転した。
「出る、というなら、自分たちにできるのは、精いっぱいの応援をすること」
「桃神祭を、素晴らしいライブにするために、思う存分楽しむこと」
モノノフの気持ちにスイッチが入った。
僕は8月1日の桃神祭2日目、新宿の映画館でLV参戦した。
いつもは履かない、黄色のCROCKSを履いて、事前物販で購入した今年の桃神祭のTシャツを着て、黄色のメッセンジャーバッグにギガライトを入れて、そうして桃神祭に臨んだ。
そして、映画館のスクリーンを通して見えた現場の景色は、圧巻だった。
エコパスタジアムを埋め尽くした47000人以上のモノノフたち。
「夢の浮世に咲いてみな」から始まる、濃密でスピード感あふれるセットリスト。
そして何より、踊れないれにちゃんに対する、全モノノフの声援。
いつものライブより、ずいぶん短い時間だったのに、今年の桃神祭は、それを感じさせない濃密な時間だった。
ライブというものが、出演者だけではなく、観客も含めて作られているものだということを、強く感じた。
本当なら、れにちゃんの骨折は、不安要素だった。
でも、思い返してみれば、昨年の紅白、杏果がいない時に、彼女がいない、という喪失感を味わった時の気持ちに比べ、この桃神祭には、れにちゃんが、踊れないとはいえそこにいて、精いっぱいの笑顔を振りまいてくれた。
昨年の春、国立競技場大会を前にして、あーりんが骨折した時も、踊れないながらもAEイベに出てくれて、5人でパフォーマンスをして、僕は大満足だった。
つまり、彼女たちのパフォーマンスとは、踊ること、歌うことだけではなくて、彼女たちがそこにいて、笑顔を振りまいてくれて、手を振ってくれて、僕らと一緒にライブを楽しんでくれる、という幸福感にあるのだ、ということが分かった。
最後の挨拶の時、夏菜子が言った。
「私たちは競争心とかないんですけど、みんなの笑顔だけは譲れません」
自分たちにとって、何が何でも譲れないもの。
それが分かっている5人だから、決意にも判断にもブレがない。
そして、れにちゃんの出演決意表明が、モノノフの不安を消し、桃神祭に向けた気持ちに火をつけて、彼女たちとモノノフの心が共鳴する準備が整って。
そうして作られた、真夏の熱狂。
この幸福感とスピード感、濃密な感情のせめぎあいは、なかなか味わえるものじゃない。
LVでこれなんだから、現地では…。
そんなことを思わずにはいられなかった。
追記:「Zの誓い」の途中、杏果のヘッドセットがズレてしまって声を拾えなくなったアクシデントが起こった時、彼女は自分のパートがない瞬間に、舞台袖に走って捌けて、何事もなかったように戻ってきた。
彼女の対応能力は本当にすごい。
あの「極楽門」のココナツの時に靴ひもがほどけてしまった瞬間、彼女がほどけた方の靴を脱いでポーンと舞台袖に投げた光景を、今でも鮮明に覚えている。
[2015.8.2]