この記事をSNSでシェア!

このブログには、心を揺さぶられることだけを書こう、と思っている。

自分の周囲に起こる、そうした出来事は、たいてい喜びや嬉しさや熱狂を感じることが多いのだけど、このことだけは書き記して残しておきたいと、そう思う出来事が起こった。

この文章を書くのは、自分の中にわき起こった、怒りと悲しみの気持ちゆえだ。

自分は、専門学校を卒業して以来25年、出版業界に身を置いている。
中学生の時に読書の楽しさを覚え、高校の頃、自分の人生を大きく変えることになった作品と出会った。
少しでもその素晴らしい作品を作る手伝いをしたい、そういう気持ちで、出版業界に入り、今日まで仕事をしてきた。

この25年は変革の時代だった。

学生の時に使っていたのは、MS-DOSのパソコン。フロッピーディスクも8インチのまだペラペラのものだった。
windowsが生まれ、インターネットが普及し、フィーチャーフォンが生まれて、それがスマートフォンに変わり、タブレットが一般化した。
ダイヤルQ2の広告が業界を席巻し、廃れて、出会い系サイトのブームが起こり、それも廃れつつある。

日本で一番出版物を販売している書店はAmazonで、一番雑誌を売っているのはセブンイレブン。
それが今の現実だ。

そして今年、取次店の協和出版販売がトーハンの傘下に入り、そして6月末、取次業界4位の栗田出版販売が、民事再生手続きに入ることになった。

急速に業界再編と淘汰の波がやってきた。

これは、旧態依然とした構造の出版流通を根本から変えることをしなかった業界全体の責任でもあるし、時代の要請に応えて変革の道を取った出版社、書店がいる一方で、取次店にはそういう動きがなかったことに起因する当然の結果かもしれない。

いまだ売り上げの主力とはならないが、電子化や版権ビジネスへの進出を行い、脱紙の出版物へのかじを切りつつある出版社。
複合店化して生き残りを図る書店。

そうした中で、、栗田が民事再生ということになったのだが、過日あった債権者説明会で、栗田の弁護士が説明した取引内容が、大いに紛糾することになった。

曰く、6月25日以前に納品した売掛け金は財産保全のため支払い凍結。
しかし、栗田からの返品は、受け入れ先を大阪屋とし、大阪屋の売掛金から相殺される。

一体、どこをどう考えれば、こんな悪魔のような方法を思いつくのだろう。
しかも、同時に栗田は、取引先の書店にも、開店時の補償金を全額返金できない見込み、と通達を出している。

書店と出版社に負担を押し付けて、栗田は再生し、大阪屋は栗田の返品を相殺することで、焼け太りする。

取次店以外にメリットが一切ない方法。

栗田の弁護士曰く、この方法は、法的に一切問題がない、らしい。

でも、債権者説明会の中、質疑応答に立ったある出版社の社長のひとことが、この方法のひどさを物語っていると思う。

「あなた方には、心がないのか」

法的に問題がない方法で再生を図る。
それがたとえ、取引先に多量の血を流すことになっても。

今回、出版社が、栗田への納品ストップなどの方法を取らざるを得なくなったのは、今回の方法を受けて、取次店に対する信頼が失墜したからだ。

業界は一枚岩ではなく、出版社は自衛手段を取るしかない、ということだ。

自分は、この業界がどうしてこんな風になってしまったのか、今、やるせない気持ちでいる。

そして、小さなコミュニティでもいいから、志が同じ出版人たちと一緒に、商流や収益獲得手段を作っていくことの重要性を感じている。

この後、どのように事態が動くかわからない。
それでも生き残って前に進むためにどうしたらいいか、全力で考えなければならないと、そう考えさせられた出来事だった。

[2015.7.11]

この記事をSNSでシェア!